サツマイモ栽培も中盤に差し掛かると、畑一面につるが広がり、足の踏み場もないジャングル状態になって驚くことがありますよね。
教科書通りならつる返しをするべき場面ですが、この暑い時期に重労働をするのは正直しんどいし、もしつる返ししないとどうなるのか、本当に必要な作業なのか疑問に思うことも多いはずです。実はサツマイモのつる返しは、栽培している品種やマルチの有無によって、やるべきかどうかの判断が大きく分かれる作業なんです。
この記事では、紅はるかや安納芋といった人気品種ごとの違いや、つるボケしてしまった場合の対策、さらには動画で確認したくなるような正しいやり方や時期についても詳しく解説していきます。
- つる返しを行わない場合に起こりうる具体的なリスクと生理的な理由
- 裸地栽培とマルチ栽培における作業の必要性の違いと判断基準
- 紅はるかや安納芋など品種特性に基づく最適な管理方法
- 効果的な実施時期と失敗しないための正しい手順・NG行動
サツマイモのつる返ししないとどうなる?環境別の真実

ここでは、つる返しを行わなかった場合にサツマイモにどのような変化が起きるのか、栽培環境ごとの違いに焦点を当てて解説します。「しないとどうなるか」を知ることは、自分の畑に合った最適な管理方法を見つける第一歩です。
つる返しが必要な理由と効果の解説
そもそも、なぜ昔から「サツマイモはつる返しをしろ」と口を酸っぱくして言われてきたのでしょうか。その最大の理由は、サツマイモが本来持っている「どこでも根を出し、領土を広げようとする」たくましい生命力(サバイバル本能)にあります。
サツマイモはヒルガオ科の植物で、地面を這うように伸びるつるの「節(葉の付け根)」が地面に触れると、そこから新しい根(不定根)を次々と生やす性質があります。これは植物としては非常に理にかなった生存戦略です。もし株元が動物に食べられたり病気になったりしても、伸びた先で根を下ろしていれば、そこが新たな拠点となって生き延びることができるからです。
しかし、私たち人間がサツマイモを栽培する目的は、あくまで「株元の大きなイモ」を収穫することです。つる返しをせずに放置しておくと、つるの各節から出た不定根が土の中に深く入り込み、そこから水分や養分を盛んに吸収し始めてしまいます。
こうなると、植物体内で栄養の奪い合い(競合)が始まります。不定根が養分を吸い上げると、光合成で作られた栄養分(同化産物)が、本来太らせたい株元のイモに送られず、あちこちの新しい根や葉の成長に使われてしまうのです。つまり、栄養が分散してしまうわけです。
つる返しという作業は、この不定根を物理的に引き剥がして切断することで、栄養の逃げ道を強制的に塞ぎ、ソース(葉)で作られた栄養をシンク(株元のメインのイモ)に一点集中させるための「外科手術」のような効果があるのです。また、つるをひっくり返すことで、葉の裏側に隠れていた病害虫を日光や風に晒し、逃げ出させる効果も副次的に期待できます。
裸地栽培でしないと小イモ化するリスク

黒マルチなどの被覆資材を使わず、土がむき出しの状態で育てる「裸地栽培」を行っている場合、つる返しをしないことによるリスクは最大レベルになります。もしあなたが裸地栽培をしているなら、この項目は特に注意深く読んでください。
裸地栽培では、伸びたつるが常に土と直接接触している状態です。特に梅雨時期や夏の夕立の後など、土壌水分が多い状態がつづくと、つるの節部分は湿り気を感知して、爆発的なスピードで発根します。これを「自然の摂理だから」と放置しておくと、以下のような悲劇的な結末を迎える可能性が高くなります。
- 深刻な小イモ化(クズイモの量産): あちこちの節から出た根の先にも小さなイモ(ツル根イモ)ができ始めます。植物としては「質より量」で子孫を残そうとするため、株元にあるメインのイモへの栄養供給がストップし、収穫してみたら「食べる部分がほとんどない細いイモばかり」という結果になりがちです。
- 収穫作業が地獄絵図に: これが最も恐ろしい点ですが、夏の間につるが地面に網の目のように根を張り巡らせ、地面と一体化してしまいます。秋の収穫時にいざつるを撤去しようとしても、人力では到底引き剥がせないほど頑丈に張り付いています。鎌や草刈機で少しずつ根を切断しながら進むしかなく、通常の何倍もの時間と労力がかかります。
もし今からでも間に合うなら、あるいは来年のために覚えておいてほしいのが「0.02mm厚」のマルチです。安物と違い、つるが突き破れない強度があるため、敷くだけでこの重労働をほぼゼロにできます。
つるボケ対策としてのつる返し活用法

「葉っぱばかりが青々と巨大化して茂り、肝心のイモが全く太らない」。これがサツマイモ栽培で最も恐れられている失敗、いわゆる「つるボケ」です。
つるボケの主な原因は、土壌中の窒素成分が多すぎることです。前作で使った肥料が残っていたり、良かれと思って堆肥を入れすぎたりすると発生します。この「窒素過多」の状態でつるの途中から不定根が出ると、事態はさらに悪化します。不定根からも土壌中の過剰な窒素をグングン吸収してしまい、さらに葉や茎だけが際限なく巨大化する「負のループ」に陥るからです。
このような状況において、つる返しは非常に有効な「レスキュー手段」となります。つるを持ち上げ、不定根をブチブチと切断することは、外部からの過剰な窒素供給ルートを物理的に遮断することを意味します。
太く根付いてしまった根を引き剥がすのは、まさに外科手術です。無理に引っ張ってイモを傷めないよう、プロも愛用する切れ味鋭い鋏で、スパッと根だけを切断するのが正解です。
さらに、植物生理学的にも重要な意味があります。根を切られるという強い物理的ストレスは、植物にとって「生命の危機」です。この危機感こそが、「今のまま体を大きくしている場合ではない、急いで子孫(イモ)を残さなければ!」というシグナルになり、成長モードを「栄養成長(体を作る)」から「生殖成長(実を作る)」へと強制的に切り替えるスイッチになるのです。
農林水産省の子供向け解説ページでも、肥料(特にチッソ)が多いとつるボケになりやすいことが解説されています。つる返しは、この過剰な吸収を断ち切るための重要な管理作業と言えるでしょう。(出典:農林水産省『サツマイモができるまで』)
マルチ栽培ならつる返しは不要か

では、家庭菜園で一般的になった「黒マルチ栽培」の場合はどうでしょうか。結論から言うと、マルチフィルムをしっかり張って栽培している場合、つる返しの必要性はグッと低くなります。私自身もマルチ栽培の時は、ほとんどつる返しをしていません。
理由は単純明快で、つるが地面ではなくポリエチレン製のマルチの上に伸びるためです。マルチの上は乾燥しており、物理的に土と遮断されているため、つるの節から多少の根が出ても、土に到達して刺さることができません。土に根が届かなければ、そこから栄養や水分を吸うことはできないので、どれだけつるが伸びても「栄養の分散」や「小イモ化」のリスクは構造的に発生しにくいのです。
ただし、これには「例外」があります。以下のようなケースでは、マルチ栽培でもつる返し(またはつるの整理)が必要になります。
- つるが通路にはみ出した場合: マルチの幅には限りがあります。つるがマルチを超えて、土がむき出しの通路(畝間)まで伸びてしまうと、そこからしっかりと根を下ろしてしまいます。通路の土から養分を吸ってしまうので、はみ出した部分だけを持ち上げて、マルチの上に戻してあげる「簡易的なつる返し」は必要です。
- マルチが破れている場合: 鹿やカラス、あるいは劣化によってマルチに穴が開いていると、そこを目がけて根が入り込みます。見つけ次第、根を引き抜いて穴を塞ぐなどの処置が必要です。
垂直栽培ならつる返し不要で省力化

最近、都市部の狭小地やプランター栽培、袋栽培などで注目を集めている「垂直栽培(空中栽培)」をご存じでしょうか?これは、キュウリやトマトのように支柱やネットを立て、つるを上へ上へと誘引していく栽培方法です。
この栽培方法の最大のメリットは、物理的につるが地面に一切接触しないため、つる返しという作業自体が100%不要になるという点にあります。空中に浮いているつるからは、どう頑張っても不定根が土に到達することはありません。そのため、つるから吸収されるはずだった余分な養分や水分がカットされ、必然的に光合成産物は株元のイモに集中することになります。
また、地面を這わせる通常の栽培に比べて、以下のようなメリットもあります。
- 光合成効率の向上:全ての葉が重ならずに立体的に配置されるため、まんべんなく日が当たり、効率よく栄養を作ることができます。
- 病害虫の抑制:風通しが抜群に良くなるため、湿気を好む病気や、葉の裏に隠れる害虫の発生を抑えることができます。
もちろん、支柱を立てたり、定期的に紐で縛って誘引したりする手間はかかりますが、真夏の炎天下で重たいつるをひっくり返す重労働に比べれば、はるかに楽だと感じる方も多いはずです。「どうしてもつる返しをしたくない」「腰への負担を減らしたい」という方は、最初から垂直栽培を選ぶのも賢い選択肢の一つですよ。
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▶近くの農園をチェックしてみるサツマイモのつる返ししないとどうなるか品種と時期で解説

一口にサツマイモと言っても、品種によってその性質(性格)は全く異なります。ここでは、品種ごとの遺伝的な特性や、作業を行うべき具体的なタイミングについて、より実践的な視点で解説します。
紅はるかはつる返し不要な場合が多い
今や「焼き芋といえばこれ」というほど、スーパーや専門店で圧倒的な人気を誇る「紅はるか」。実はこの品種、味だけでなく栽培の手間がかからないという点でも非常に優秀な品種です。
紅はるかは、つるの伸長力こそ旺盛でよく伸びますが、「株元のイモに栄養を集める能力(シンク能)」が非常に高い品種として知られています。多少つるが伸びて途中から根が出たとしても、それに負けずにしっかりとメインのイモを太らせてくれる傾向があります。つまり、栄養をあちこちに浮気させず、しっかりと本命に届ける一途な性格と言えます。
農研機構や種苗メーカーの栽培マニュアルを見ても、紅はるかに関しては「つる返し不要」あるいは「省力化可能」とされるケースが増えています。特にマルチ栽培と組み合わせれば、よほどのつるボケ傾向(葉色が異常に濃いなど)がない限り、放任栽培でも十分に見栄えの良い、美味しいイモが収穫できます。
ただし、放置しすぎて隣の畝に侵入したり、通路を完全に塞いでしまったりするのは管理上問題ですので、あくまで「生育の整理」としての軽い手入れは行ってあげてください。
安納芋はつる返しが必須な品種特性

一方で、栽培において最も警戒が必要なのが「安納芋」です。ねっとりとした極上の甘さが魅力の種子島在来種ですが、この品種は良くも悪くも「野生の性質」を色濃く残しています。
安納芋はとにかく生命力が強く、這う力が強烈です。節という節から太い根を出し、そこら中に小さなイモ(分家)を作ろうとする性質が他の品種よりも圧倒的に強いのです。これを紅はるかと同じ感覚で放置してしまうと、栄養が見事に分散してしまい、秋に掘り起こしてみたら「親指サイズやピンポン玉サイズのコロコロしたイモが大量に出てきただけ」という悲しい結果に終わりがちです。
安納芋を育てる場合は、マルチ栽培であっても油断は禁物です。マルチの裾の隙間や、破れ目、通路にはみ出した部分から執拗に根を張ろうとします。定期的なパトロールを行い、見つけ次第つるを持ち上げて根を切る「つる返し」を積極的に行うことを強くおすすめします。手間をかけた分だけ、あの蜜たっぷりの美味しさで応えてくれるはずです。
| 品種 | つる返しの必要性 | 特徴・対策 |
|---|---|---|
| 紅はるか | 低い(ほぼ不要) | 株元集中型で作りやすい。マルチがあれば基本放置でOK。つるボケ時のみ実施。 |
| 安納芋 | 高い(必須) | 分散型で野生味が強い。放置すると小イモだらけになるため、こまめな管理が必要。 |
| シルクスイート | 低い(不要) | 比較的おとなしい草姿。環境ストレスに敏感なので、むやみに触らない方が良い。 |
| 紅あずま | 中程度 | 早生品種。生育期間が短いため、過繁茂する前に収穫時期を迎えることも多い。 |
つる返しの時期はいつ行うのが最適か

では、実際につる返しを行う場合、いつやるのが正解なのでしょうか。最適な時期は、つるが畝を覆い尽くして通路にはみ出し始める7月中旬から8月下旬にかけてです。
この時期は日本の気候的にも重要な意味があります。梅雨が明けると、サツマイモは強い日差しを浴びて一気に成長します。しかし、梅雨の長雨で土壌が湿っていると、つるの節からの発根も同時に進んでしまいます。梅雨明け直後に一度つる返しを行い、発根した根をリセットしてあげるのが最も効果的です。
頻度としては、生育状況を見ながら夏場の間に1回〜3回程度が目安です。「毎日やらなきゃ」と思う必要はありません。2週間に1回程度、畑の様子を見に行ったついでに、通路にはみ出ているものを整理する程度で十分です。
作業は必ず「晴天が続く日の午前中」に行いましょう。雨の日や雨上がり直後は、切断した根の傷口が乾きにくく、そこから細菌が侵入して病気になるリスクがあるからです。晴れた日なら、太陽の光と熱で傷口がすぐに乾き(コルク化し)、自然のカサブタとなって病原菌の侵入を防いでくれます。
収穫前のつる返しは避けるべき注意点

「もうすぐ収穫だから、最後につる返しをして綺麗にしておこう」「雑草整理も兼ねてひっくり返しておこう」。これは、実はやってはいけないNG行為です。
具体的には、収穫予定日の1ヶ月前(9月中旬以降など)になったら、つる返しはストップしてください。この時期はサツマイモにとって、葉で作ったデンプンをイモに送り込み、最後の仕上げとして肥大・熟成させる最も重要な時期です。
この段階でつるを大きく動かしてしまうと、葉の向きが変わってしまいます。葉が裏返ったり重なったりすると、元の受光体勢に戻るまでに数日から1週間程度のタイムロスが発生し、その間の光合成効率がガクンと落ちてしまいます。また、古くなったつるを無理に動かすと、株元の吸水根まで切れてしまい、イモの品質低下を招く恐れもあります。
動画で確認したい正しいつる返しのやり方

文章だけではイメージしにくいかもしれませんが、つる返しのコツは「音」にあります。正しい手順は以下の通りです。
- 場所の選定:つるの先端(成長点)を持つのではなく、根元に近い中間部分や、通路にはみ出して地面に張り付いている部分を狙います。
- 持ち上げと反転:ガバっとつるの束を掴み、思い切って持ち上げます。そして、反対側の畝の上(または自分の株の上)に裏返して置きます。
- 音の確認:この時、地面に食い込んだ根が切れて「バリバリッ」「ブチブチッ」という音がすれば成功です。
この「バリバリ」という音こそが、不定根が切断されている証拠です。初めてだと「植物を傷つけているのでは?」と不安になり、恐る恐るやってしまいがちですが、心を鬼にして引き剥がしてください。中途半端にやると根が切れず、ただつるを揺らしただけになってしまいます。
ただし、メインの茎(株元から伸びる太いつるそのもの)をポキッと折ったり、ハサミで切ったりしないよう、力加減には注意が必要です。あくまで「地面に刺さった細かい根」を切るのが目的です。作業後は、つるが重なりすぎないように軽く広げてあげると、風通しも良くなります。
注意点として、サツマイモの樹液(ヤラピン)は手につくと黒く変色し、石鹸でも落ちません。この手袋は「蒸れないのに汁を通さない」特殊技術が使われており、不快なベタベタから手を守る必須アイテムです。
サツマイモのつる返ししないとどうなるか総まとめ
最後に、サツマイモのつる返しをしないとどうなるか、要点をまとめます。
裸地栽培や安納芋のような「根を出しやすい環境・品種」でつる返しをサボると、不定根に栄養を横取りされて「小イモ化」や「つるボケ」による減収を招くリスクが非常に高くなります。この場合、つる返しは美味しいイモを収穫するための必須条件と言えるでしょう。
一方で、現代の主流である「紅はるか×黒マルチ栽培」の組み合わせであれば、基本的につる返しをしなくても大きな問題にはならないことがほとんどです。むしろ、過度なつる返しは植物にストレスを与え、労力の無駄遣いになる可能性すらあります。
大切なのは、教科書通りのルールを守ることではなく、目の前のサツマイモの状態をよく観察することです。「今日は通路にはみ出た分だけ戻しておこうかな」「ちょっと葉っぱが茂りすぎているから、バリバリ剥がして喝を入れてやろうかな」。そんなふうに、ご自身の畑の状況や品種に合わせて柔軟に対応することが、楽しく長く栽培を続けるコツですよ。


